原油高を背景に軽油価格が急騰し、トラック運送事業経営に大きな打撃を与えています。全日本トラック協会の調査によると、2005年12月のローリー価格は1リットル当たり85.0円となり、1年前の同じ月と比べて12.1円上昇、2003年度の平均価格63.7円と比較して21.3円も値上がりしています。軽油価格が1円上昇するとトラック運送業界全体で年間180億円のコストアップとなり、20円の上昇としても3,600億円もの負担増になる計算です。一般トラック運送業界の2003年度の経常利益は約460億円であり、3,000億円を超える赤字に転落することになります。
規制緩和により、1990年度に約4万社だったトラック運送事業者数は2004年度には約6万社へと1.5倍に増えており、競争激化により運賃も過去5年間で約4%低下するなど下落傾向にあります。このような状況下での燃料価格の上昇は、トラック運送事業者にとって危機的な状況といえます。
こうした窮状を打破するため、トラック運送業界では2005年5月に中西英一郎東ト協会長らが中川昭一経済産業大臣(当時)に対して価格安定に向けた緊急措置を要望したのを皮切りに、陳情活動を展開し、その後、北側一雄国土交通大臣が経済界のトップと相次いで会談、直接運賃転嫁への理解を求めるなど大きな流れに発展しました。
北側大臣は9月27日に奥田碩日本経団連会長(トヨタ自動車会長)と、10月7日には山口信夫日本商工会議所会頭(旭化成会長)と会談し、原油価格高騰に苦しむトラック運送業界の窮状に理解を求めました。
その結果、10月18日に日本経団連でトラック運送業界、荷主、石油業界の三者による懇談会が開かれ、出席した中西全ト協会長は「死活問題だ」と窮状を訴えました。
一方、政府レベルでもこの間、関係10府省の局長クラスによる「原油問題関係府省連絡会議」が設置されたほか、10月4日には原油問題に関する閣僚会合が設置され、省エネ支援や中小企業支援などに各省が連携して取り組む方針を決定しました。
国土交通大臣、経団連など中央での動きが活発化するとともに、10月以降は地方レベルでも運輸局長らが地元経済界に対して理解を求める働きかけを行いました。関東でも運輸局長が関東商工会議所連合会を訪れ、荷主の理解が深まるよう協力を要請するなど、全国で同様の働きかけが展開されました。こうした中央、地方での活動が展開されたことにより、燃料価格の上昇やトラック運送業界の窮状が広く経済界に認識されるようになっていきました。
東京都トラック協会では、会長代行の諮問機関として軽油価格高騰対策緊急小委員会を9月5日に設置し、軽油消費の抑制や運賃転嫁方策などの検討に着手しました。検討の成果として、各方面へ要望活動を行うとともに、11月22日には会場となった自民党本部大ホールに700人が結集して軽油価格高騰・経営危機突破大集会を開催し、運賃転嫁に向けた決議文を採択しました。
政治、行政による環境整備を受けて、トラック運送事業者の運賃転嫁に向けた動きも活発になりました。全日本トラック協会の調査によると、2005年7月時点で荷主に運賃交渉を行っている事業者は28.5%でしたが、10月調査では、これが44.1%になり、12月調査では52.6%へと増加しており、着実に交渉の動きが拡がっています。
実際の転嫁についても、何らかの転嫁ができている事業者は7月の9.5%から10月には15.5%、12月には24.1%と調査時点を追うごとに増えています。運賃転嫁交渉がうまくいった要因としては「軽油値上がりが社会的に認知されてきたから」「荷主がトラック業界の苦境を理解してくれたから」とする意見が大半を占めています。
今回の軽油価格の高騰は、原油価格の上昇が要因です。2005年8月に1バレル70ドルという史上最高値を記録した原油価格(WTI価格)は、その後一旦50ドル台まで下落しましたが、年明けから再び上昇に転じています。中国をはじめとする石油需要の拡大や、OPEC生産余力の低下などの構造的要因に投機的な動きが加わって高い水準で推移しており、この傾向は今後も相当期間続くと見られています。
このため、トラック運送事業者は運賃転嫁に向けた粘り強い交渉を続けていくことだけでなく、燃料高時代を生き抜くため、燃料消費効率を向上させる省エネ運転の徹底など、省エネ型の経営に取り組むことが求められています。