東京、埼玉、千葉、神奈川の1都3県によるディーゼル車走行規制は、トラック運送事業者の協力などにより順調に推移しています。東京都が2004年9月27日にまとめた規制開始後1年間の取り締まり結果によると、自動車Gメンによる路上・物流拠点での車両検査では、8月末まで11か月間の調査台数5,684台、このうち違反台数は162台で、違反率は2.9%にとどまっています。内訳は、都内車両が調査台数3,016台に対して違反車両48台(違反率1.6%)、都外車両が調査台数2,668台に対して違反車両114台(違反率4.3%)です。
東京都では04年6月から黒煙ストップ110番を新たに設置していますが、都民などからの通報は、同じく04年8月末現在で通報台数745台のうち違反車両は54台(違反率7.2%)となっています。このほか、幹線道路や首都高速道路では車両のナンバーを監視カメラで撮影しており、これらの取り締まりを通じて1年間で計60台の車両に対して運行禁止命令を発動しています。
埼玉、千葉、神奈川、兵庫の各県でも路上検査をはじめとする取り締まりを実施しており、埼玉では違反率3.1%、千葉では2.3%、神奈川では2.1%となっています。
ディーゼル車規制により、大気汚染改善効果が現れています。東京都の測定によると、規制開始後1年間のSPM(浮遊粒子状物質)平均濃度は、規制開始前1年間と比べて低下しています。とくに道路沿道での改善が著しく、一般測定局では9%の改善にとどまりましたが、道路沿道測定局では14%低下しています。埼玉県でも同様に、2003年10月から2004年8月まで11か月間のSPM濃度は、前年同期比で約9%改善しています。
ディーゼル車規制の課題の一つが、都内への流入車両の違反台数が依然として多い点です。厳しい経営環境のなかで規制への対応を図った事業者からは、規制をより徹底すべきとの声も寄せられているため、東京都では都県境など流入車が多い主要道路を重点的に監視カメラで撮影するほか、ふ頭など流入車の多い物流拠点での取り締まりを強化しています。同時に、規制未対応の都内事業者に対しては、対応状況を個別に調査し、事業所への立入検査を強化しました。
1都3県を含む首都圏の8都県市は2004年10月12日、国に対して自動車NOx・PM法の対策地域への流入車両対策を実施するよう要請しました。要請は、環境、国土交通、経済産業の各大臣に宛てたもので、NOx・PM法では流入車両は規制対象となっていないことから、流入車両規制を早急に実施するよう求めたほか、局地的な高濃度汚染地域への抜本的な対策の実施、車両買い換えに対する事業者への支援策の充実強化を要請しました。
三井物産は2004年11月22日、同社が販売したDPF(ディーゼル微粒子除去フィルター)について、虚偽のデータを使用して都の指定を取得していたことを明らかにしました。問題のDPFは、「CRT-TSS」の型式SOW-301B(カテゴリー1対応)で、子会社であるピュアースが製造し、三井物産が3年間で約2万1,500台を販売していました。全国のDPF装着台数は約5万5,000台のため、三井物産のシェアは39%に達します。
同社は、まず2002年2月に東京都の指定承認を得るため、製品のデータを偽って申請しました。その後も形状変更申請の際に虚偽データを使用し、さらに、同社のDPFを装着した都バスから黒煙が出ているとの市民からの苦情を受けて、2003年1月に東京都職員立ち会いで排出ガス測定実験が行われた際にも、都職員にわからないようにデータを改ざんし、基準値をクリアしたように見せかけました。結果的に基準値の7~8割の性能しかない製品を販売したことになり、トラック運送業界からは怒りの声が相次ぎました。
三井物産は2004年12月1日、他社製DPFなど代替品との無償交換や補助金の一括弁償などを行う方針を示しましたが、同月7日、東京都など1都3県は「大気汚染改善を願う首都圏住民に対する裏切り行為だ」として、三井物産社員らを詐欺などの疑いで警視庁に刑事告発し、同月24日には8都県市が同社製DPFの指定を取り消しました。これに伴い東京都は、ユーザー保護や物流・公共交通確保の観点から「取消しの日までに装着した装置については、当分の間、取消しの効力は及ばないものとする」としました。
年が明けて2005年2月9日、三井物産はユーザー対応策として、代替品との無償交換などのほか、新車への買い換え支援を加えた追加対応策をまとめました。
自動車NOx・PM法に基づく車種規制がピークを迎えています。約310万台のトラックおよび特種自動車のうち、7割にあたる約220万台の基準不適合車の規制適用が猶予期間切れに伴い本格化しているからです。2004年度の代替見込み台数は全体の14.6%にあたる約46万台なのに対して、2005年度は23.8%にあたる約70万台が、2006年度には17.3%にあたる約50万台が猶予期間切れを迎えて代替を余儀なくされます。
1都3県の条例によるディーゼル車規制と異なり、NOxも同時に基準値を満たす必要があるため、今後も対策地域内で使用を続けるためには新車に買い換える以外に対応策はありません。もともと利益率の低いトラック運送事業者の経営を、さらに圧迫することになると懸念されており、補助や融資などの緊急支援策が求められています。
自動車NOx・PM法の目標は、2010年度までにNO2(二酸化窒素)およびSPM(浮遊粒子状物質)の環境基準をおおむね達成することです。同法に基づく総量削減計画では、中間年である2005年度における排出量を中間目標として定めており、2005年度に各種施策の進捗状況などについて中間的な取りまとめ・評価を行い、必要に応じて新たな施策の導入について検討することになっています。環境省では2005年度、車種規制などの施策の効果を中間点検し、場合によっては審議会の審議も経て対策を強化する方針です。
ディーゼル車の排出ガス規制は、2005年~2007年にかけて世界で最も厳しい規制である新長期規制が実施されることになっています。2002年~2004年にかけて実施された新短期規制に比べ、NOxで41~50%削減、PMで75~85%削減するという厳しいものですが、米国が2007年からさらに厳しい規制の実施を予定しているため、石原東京都知事は「わずか2年で日本は再び後塵を拝することになる」と、さらなる規制強化を求めています。
一方、中央環境審議会大気環境部会は2005年2月22日、排出ガス規制の「09年目標」を決めました。これは、新長期規制よりさらに厳しい規制値案を定めたものです。PMについては、新長期規制より53~63%削減して測定限界以下のほぼゼロに近い値としたほか、NOxについても同40~65%削減するとしています。いずれも09年時点では、欧米を抜き世界で最も厳しい排出ガス規制となります。
先進国に温室効果ガスの削減を義務づけた京都議定書が、2005年2月16日発効しました。2004年11月18日にロシアが批准し、発効要件が満たされたためで、2010年に1990年比で6%削減するというわが国の削減目標に、法的拘束力がかかることになりました。政府は3月末を目途に京都議定書目標達成計画を策定し、意見募集を行ったうえで、4~5月頃閣議決定する見込みです。
ただ、2003年度の温室効果ガス総排出量(環境省推計速報値)は、90年に比べ8%増加しており、6%削減約束との間に14%ものギャップが生じているのが実情で、今後は地球温暖化対策が喫緊の課題となります。
京都議定書を達成するための追加的な地球温暖化対策の一つとして浮上しているのが、ガソリンや軽油、ガスなどの化石燃料や電気に課税する環境税です。環境省は2005年度税制改正で、炭素1トン当たり2,400円、ガソリン1㍑当たりに換算すると1.5円を課税する案を提出しました。価格上昇によるエネルギー使用抑制効果のほか、約4,900億円の税収を、省エネ機器への補助金など、温暖化対策に活用する効果を狙ったものです。しかし、経済界を中心に「温室効果ガス削減効果が期待できない」「既存エネルギー関係税制の見直しが先決」といった異論も多く、政府税調、与党税調ともに2005年度の導入は見送る方針を決めました。
しかし、温室効果ガスの太宗を占める二酸化炭素(CO)を削減する決め手がないのが実情で、一旦は見送られた環境税論議が再燃しています。環境省が「環境税は有力な手段」とするのに対し、経済界からは「効果や既存税制との関連などを議論する必要がある」といった慎重論が相次いでいます。
環境税創設には、トラック運送業界も強く反対しています。全日本トラック協会は2004年12月9日、都内のホテルで経営危機突破総決起大会を開催し、「環境税導入に断固反対」を決議して、古賀誠自民党トラック輸送振興議員連盟会長に手渡しました。さらに、京都議定書発効の際にも、環境税の創設には断固反対の立場を堅持するとのコメントを発表しています。
2002年度のわが国の温室効果ガス排出量は、前年度比2.2%増の13億3,100万トンで、このうち9割を占めるCO(二酸化炭素)排出量は、2.8%増の12億4,800万トンとなりました。部門別に見ると、運輸部門は全体の21.0%にあたる2億6,100万トンを排出していますが、自家用トラックから営業用トラックへの転換などにより、前の年度に比べ1.9%減となりました。
国土交通省によると、トンキロベースでの営業用トラックの輸送量シェアは、1998年度に78.4%だったものが、2002年度には84.1%にまで上昇しており、自家用から営業用へのシフトが進んでいることを裏付けています。2003年度の排出量(環境省推計速報値)も、総排出量が前年度比0.4%増えているのに対し、運輸部門は0.8%減と2年連続で減少しており、自動車単体の燃費向上や自家用トラックから営業用トラックへの転換については、対策の効果があがっていると評価されています。
2002年度の産業部門、家庭部門の排出量は、原子力発電所の稼働停止などにより増加しており、2003年度(同速報値)も同様に増加しています。ただ、京都議定書の基準年である1990年度と比較すると、工場などの産業部門からの排出量が0.02%減少しているのに対して、運輸部門は19.5%、オフィスビルなど業務その他部門が36.9%、家庭部門が28.9%と、それぞれ大幅に増加しているのが実態で、燃費のさらなる向上や、モーダルシフトを中心とした物流の効率化の必要性も指摘されています。
国土交通、経済産業両省は2004年12月17日、荷主企業と物流事業者が協働して物流面でのCO排出削減に取り組むため、日本経済団体連合会、日本ロジスティクスシステム協会、日本物流団体連合会と連携して、グリーン物流パートナーシップ会議を設立しました。荷主や物流事業者といった立場を超えて、互いに燃料消費の削減を計画的に進める意欲を持つ事業者や、それを支援する機関、団体などにより構成するもので、2005年2月からメンバーとなる企業・団体の登録申し込み受付を開始しています。
メンバー登録後は事業調整・評価ワーキンググループ(以下WG)、指標策定WG、広報企画WGの3つのワーキングを設けて、4月以降本格的な活動を開始する予定です。とくに事業調整・評価WGでは、荷主と物流事業者が、燃料消費の削減に取り組む個別のプロジェクトについて、事業計画および参加企業の調整、情報提供、推薦プロジェクト認定、支援措置の要請などプロジェクトメイク全般の検討を行うことにしています。
一方、国土交通省自動車交通局では2004年12月16日、自動車交通分野の地球温暖化対策を強力に推進するため、局内に「地球温暖化対策推進プロジェクトチーム」を設置しました。2005年3月の地球温暖化対策推進大綱の見直しや、2006年度概算要求作業に向け、新規施策の検討を含めて局内での検討体制を整えたもので、燃費基準検討チーム、省エネ法検討チーム、新規施策検討チーム、自動車グリーン税制検討チームの4つのチームで構成し、とくに新規施策検討チームでは、これまで手つかずだった自家用乗用車(マイカー)対策を本格的に検討しています。
自動車メーカーに使用済自動車のシュレッダーダスト(破砕くず)などの引き取りとリサイクルを義務づけ、その費用を自動車所有者が負担する仕組みを定めた自動車リサイクル法が2005年1月1日から本格施行されました。年間約400万台とされる使用済自動車の不法投棄防止、適正なリサイクルの促進を目的に制定された法律で、自動車メーカーや輸入業者には使用済自動車から発生するフロン類、エアバッグ、シュレッダーダストの引き取りとリサイクル(フロンについては破壊)を義務づけ、引取業者やフロン類回収業者、解体業者、破砕業者などにもそれぞれ役割分担を求めています。自動車所有者に対しては、使用済自動車の引取業者への引き渡しを義務づけるとともに、リサイクル料金の負担を求める仕組みとしました。
リサイクル料金は、メーカーごとに各社が定めて2004年7月に公表しました。トラックの場合は、エアコンやエアバッグの有無などによっても異なりますが、小型トラックで4,500円~10,000円程度、中型トラックで6,500円~12,000円程度、大型トラックでは9,000円~14,000円程度となっています。使用過程車については、法施行後最初の車検時までに支払うことになりますが、排ガス対策や速度抑制対策などで費用負担の増加が見込まれるなか、新たなコストアップ要因として、トラック運送事業者の経営をさらに圧迫すると懸念されています。