東京都トラック協会は、環境確保条例(都民の健康と安全を確保する環境に関する条例)のディーゼル車規制が2003(平成15)年10月1日から実施されるため、実施内容や対応策などの説明会を実施してきました。その中で、業界の実態を踏まえていないまま規制が開始されては業界が混乱すると、東京都等に「事業者が、対策を取れるように環境整備すべき」と要望し、その際に環境確保条例制定時の付帯決議に留意して現実的対応を図るよう求めました。付帯決議は、特定自動車の運行に係る規制を実施するに当たっては、(1)都民・事業者の意見を聞き、支援策を講ずること(2)粒子状物質減少装置の技術開発の促進、供給体制の整備に努めること――というものです。
要望活動の一方、現実的問題としてディーゼル車規制への対応が"時間的"にも迫ってきているため、会員事業者が対応を進められるよう「環境確保条例と自動車NOx・PM法の説明会」を積極的に開催して条例やそのための対策内容の周知を図り、さらに東ト協に「環境対策窓口」を設置し、会員事業者からの相談や補助申請受付体制を整備しました。
さらに環境対策への助成基盤を強化するため「環境対策基金」を15年3月25日に新設しました。
東京都トラック協会は、10月1日から実施される環境確保条例のディーゼル車規制に対応するため「人的増員を含めて万全の体制で臨む」(中西英一郎東ト協会長)として、会員が対策を進める上での相談や補助申請を受け付ける「環境対策補助申請等窓口」を環境部に設置しました。「環境対策窓口」は15年4月1日にオープンし、窓口業務を職員11人で開始しました。
「環境対策窓口」では、東ト協が環境対策事業として行っているPM(粒子状物質)減少装置装着補助申請やCNG(天然ガス)車導入補助申請を受け付けるとともに、低公害車や最新規制適合車への買換え融資等の相談をはじめ、東京都や国に対するPM減少装置装着補助申請やCNG車導入補助申請の受付も代行しています。
「環境対策窓口」には"この車両はどのような対策が効果的か""ディーゼル車規制にPM減少装置装着で対応しようという場合、どのようなPM減少装置が装着できるのか"など事業者側から多岐に渡る質問や相談が寄せられ、さらに補助申請などでは東ト協、東京都、国などで補助の仕組みや申請書類が違い、それらが絡み合うため、相談に相当時間がかかるケースも見られました。
相談開始から16年2月末までの相談件数は電話1万2,670件(1日平均56.1件)、「窓口」5,695件(同25.5件)にも及んでいます。また、申請受付処理件数は、東ト協1万6,623台、東京都1万3,493台、国(国土交通省)2,433台となっています。
東京都の石原慎太郎知事が4月15日に東ト協の「環境対策窓口」を視察しました。石原知事は、中西英一郎東ト協会長らの説明で、窓口で行われているPM減少装置装着補助申請やCNG車導入補助申請の受け付け、環境対策をどうしたらよいのかという相談、また、東京都や国に対するPM減少装置装着補助申請やCNG車導入補助申請の受付代行の様子などを見て回りました。
その途中、相談に来ていた会員事業者が「このような環境施策を東京都が取っているので、会社がつぶれてしまう」とこぼしました。その声を聞いた石原知事は「事業者が苦労しながら対策を進めている。『大変なことをしている』と事業者の実情を理解した様子」でした。
こうした事業者の"生の声"が、6月5日に都庁で開催された「環境を考える都民のつどい」の中で現れました。このつどいの席上、東京都は東京都環境賞の授賞式を行いました。東ト協は環境保全活動の推進に貢献があったとして知事感謝状を受賞しました。このとき石原知事があいさつで、東ト協「環境対策窓口」の視察のエピソードを語り、「東ト協が我が身を削るように環境問題に対応していることに非常に感謝している」と東ト協の協力を高く評価しました。
15年10月1日からの環境確保条例や自動車NOx・PM法によるディーゼル車排出ガス規制で、今後、PM減少装置、CNG車など低公害車の導入や最新規制適合車への買換えなどで会員事業者のコスト負担が増大することが必至な情勢のため、その支援を目的に15年3月25日に環境対策基金が新設されました。
基金は、(1)CNG車等低公害車の購入・リース助成事業(2)粒子状物質減少装置装着助成事業(3)その他自動車公害対策に係る事業――を目的にしています。財源は15年度に地方近代化基金から5億円、物流施設建設基金から2億円をそれぞれ取り崩し、これに14年度執行残と追加交付金を加えた8億4,301万1千円です。造成された基金は、15年度予算で8億1,221万3千円が取り崩され、環境対策の推進に使用されます。
東京都トラック協会は2003年6月25日、東京都および都議会自由民主党に「PM減少装置の低廉化について」と「平成16年度支援策について」を要望しました。要望は(1)現行のPM減少装置装着費用が、東京都が当初算定していた価格をはるかに凌ぐ高価なものとなっている(大型車の場合、都の当初算定80万円が実勢価格は140万円から192万円となり、事業者にとって45万円から84万円の追加負担が強いられる)(2)DPF装置の発注から装着まで2か月を要し、15年度中に全ての車両に装着することが困難(3)DPFの量産化が進んでいるにもかかわらず、価格が高価(4)PM減少装置装着補助を国土交通省は16年度も継続実施するため、国の補助を受けるには制度上東京都の補助が必要――などとして行われました。
6月30日には全日本トラック協会に、「国などへ環境対策で支援策を要請すべき」と要望しました。全ト協を通じての要望事項は、(1)国土交通省にPM減少装置装着補助の申請受付終了(参照6頁)に対して、補正予算などで補助が受けられるように措置を講ずること(2)16年度予算で東京都が15年度に導入した「特別融資制度」のような新たな融資制度・利子補給制度の創設等(3)PM減少装置装着補助対象車両の拡充――など5項目です。
また、9月8日には、東京都と都議会自由民主党に「東京都環境確保条例による車種規制の施行に係る措置について」を要望しました。これは10月1日からのディーゼル車規制開始を目前にしても、PM減少装置や自動車メーカーではいずれも「条例施行日までの納品は困難」としており、ディーゼル車規制をクリアするためにPM減少装置等を発注した車両の5割以上が装着困難となったためです。
東ト協の調べでは、PM減少装置装着が9月末までに必要なのは9,752基あるものの、装着可能予想は4,115基と装着希望の42.2%にとどまることがわかりました。また、メーカーのPM減少装置受注基数・装着時期見通しでは、PM減少装置8万8,955基に対して9月末装着可能は3万7,569基と受注基数の42.2%で、6割近くが規制開始までに装着できないこともわかりました。
こうした要望を受けて東京都は「八都県市確認証明書」を発行し、規制に対応する意思のある事業者に対して運行禁止命令や罰則適用を最長で2003年12月末を限度に猶予することを決めました。この決定は9月12日の石原慎太郎都知事の定例会見の場で、石原知事が発表しました。
さらに東ト協は12月5日、東京都や都議会自由民主党に「東京都環境確保条例の確実な施行」を要請するとともに、「平成16年度支援策」を要望しました。
「確実な施行要請」は、12月末で「八都県市確認証明書」による猶予措置の期限を迎えるものの、現実にはPM減少装置や規制適合車の供給不足等で対応できない状況であることを示して、「対応したくてもできない事業者に不公平感を与えないよう」要請しました。
東京都はじめ八都県市は12月19日、東ト協の要請に「ディーゼル車規制に関する、八都県市確認証明書の平成16年1月以降の取扱い」で応えました。これは確認証明書を所持し、メーカーが発行する「納車予定日遵守証明書」または「装置装着予定日遵守証明書」を備え付けた車両には1月末まで罰則等の適用を猶予する措置です。これに対して東ト協は、対応の遅れをメーカーの責任とするもので、都としての責任回避と強い不満を表明しました。同時に、対応が遅れて猶予措置がとられているディーゼル車が不利な取扱いをされないよう、東京都の責任で荷主企業に説明することも求めました。
その後、1月末までに対応できないディーゼル車に対して東京都は「ディーゼル車規制に関する事情に配慮した取扱等について」で、「納車予定日遵守証明書」または「装置装着予定日遵守証明書」を発行した車両で、メーカーが予定日を遵守できなかった「お詫びの文書」を所持する車両については、原則として2月末までは罰則適用を猶予することを決めています。この措置は東京都が1月30日に決めました。
東京都トラック協会は、環境確保条例に対応するため、実情がどのようになっており、確実な対応ができるのか、何が問題なのか――など、PM減少装置の生産・装着状況や新車販売状況をメーカーにヒアリングし、"その数字"をもとに東京都への要望活動を展開しました。
2003年6月には、トラックメーカー4社から(1)完成車やキャブ付きシャシーの平均的納車状況(2)架装に要する平均的期間をヒアリング。その結果、メーカー4社の平均的な納車期間は、完成車で大型車が2.0~2.1か月、中型車が1.5~1.6か月、小型車が1.0~1.75か月。キャブ付きシャシーの場合は大型1.5~2.2か月、中型1.0~2.0か月、小型1.5か月かかることがわかりました。また、ボディ架装には平均でバン型約1か月、特殊加工が必要な大型冷蔵・冷凍車で1か月半以上かかるとの回答でした。このことから、環境確保条例を新車でクリアするために、メーカー側は新車購入の発注を6月下旬から7月上旬と示唆しました。
また、6月にDPFメーカーのアペックス、ユニキャット、三井物産の3社から「DPFの供給と価格」の現状説明を聞きました。3社は受注数と生産能力を説明しましたが、受注数が生産能力を大幅に上回っていることが明らかになりました。さらにメーカー側は、価格は現状のままとし、生産増が"価格に反映しない"としました。
東ト協は11月に、(1)PM減少装置の供給状況(2)都内営業用トラック(新車)の受注・納車状況などの調査をまとめました。
東ト協が9月までに調査したPM減少装置メーカー7社のデータは、9月までの受注基数約7万4千台に対して、装着完了は約4万2千台で、約3万2千台が10月1日からのディーゼル車規制実施に間に合わないことがわかりました。この3万2千台のうち、2003年12月中に装着が完了するとみられるのが約2万2千台で、約1万台余が2003年内に装着ができないことが確実視されました。その約1万台余のうちの3千台は、2004年4月以降でなければ装着できないというのがメーカー側のデータです。ディーゼル車規制は、2003年10月以降実施されているため、毎月、規制対応しなければならない車両が出てくることになり、"積み残しの積算"の問題が潜んでいることになります。
一方、都内営業用トラック(新車)の受注・納車状況は、大型トラック4社の調査によると、9月までの受注台数6,692台に対して9月までの納車3,680台、2003年12月までの納車2,817台となっています。
さらに東ト協は、2004年1月29日現在の「都内営業用トラックへのPM減少装置装着並びに新車納入状況調査結果」をまとめました。これはDPF・酸化触媒主要メーカー3社とトラックメーカー4社を対象に行ったものです。対象メーカーが把握しているPM減少装置装着必要台数と当月に装着が完了する台数(予定)では、装着が翌月以降となるのが漸減していきますが3月末で4,456台が翌月以降の装着との見込みです。
東京都トラック協会は、交通事故防止を環境問題と同様に、業界の最重要課題として、さまざまな活動を展開しています。
東ト協は1997(平成9)年から全事業者参加型の事故防止大会を2月に開催してきました。これは事故を減少させることが業界の信頼やイメージアップ、発展につながり、トラック運送業界が「社会との共生」を図る重要な接点として、年初に事業者・業界が事故防止の決意を新たにしようというものです。
また、事故防止モデル支部を指定(2年間)して、さまざまなアイディアで地域に密着した"支部独自の活動"を支援すると同時に、その活動内容を事故防止大会で報告してもらい、各支部・各会員事業者の事故防止活動に役立てています。
こうした事故防止活動が評価され、2004年2月13日に「交通安全思想の普及浸透で東京都が策定した第7次東京都交通安全計画の目標達成に多大な貢献があった」として、警視庁交通部長から感謝状が贈られました。東京都の第7次計画は、平成13年度から17年度までの5か年計画で、「平成17年までに道路交通事故死者数を年間350人以下とする」との数値目標を立てていました。2003(平成15)年の都内の交通事故死者が320人と、数値目標を2年前倒しで達成したことに伴い、東ト協の活動が評価されたものです。
2003年6月から7月、高速道路でトラック関与の事故が相次ぎ、高速バスなどでの飲酒運転問題も発生するなど、事業用自動車の交通事故等が社会問題化しました。
このため東京都トラック協会では、道路を利用している業界として事故防止の責任を果たし、プロとして社会的信頼を回復するため、早急に事故の再発防止に取り組む必要があることを再確認。企業のトップが危機感を持って事業経営を行い、事故防止の先頭に立つとの決意を示すため 「緊急事故防止事業者大会」を各支部で開催することを提唱しました。8月下旬から11月まで、ほぼ全支部で「緊急事故防止事業者大会」などの活動が実施されました。
東京都トラック協会は、トラック運送業界を広く社会に知ってもらうため「対外広報」の強化を打ち出しました。
トラックは、「生活を豊かにする便利なもの」「居ながらにして世界からモノが届き、生活に不可欠」などと、生活とは切っても切り離せないものとの重要性は認識されていながら、一般消費者のトラックに対するイメージは「怖い」「環境に悪い」などマイナスイメージが先行しています。その背景にはトラックが関与する交通事故が社会的に大きな影響を与え、"社会問題として報道される"ことがあるためです。実際には、営業用トラックの交通事故は、トラック輸送の効率性を示す指標の一つであるトンキロベースでの事故率をみると、一般のトラックより十数倍も安全といわれています。
こうしたいわば、トラックといえば"枕詞"となっているようなイメージを改善するため、トラック業界が交通事故防止活動、環境対策をはじめ、日常生活を支えている業界であることを広く知ってもらうための努力が必要と各方面から指摘されてきました。
東ト協は東京MXテレビを活用して、独自の広報番組「暮らしを支えるトラック」を、2003年7月の毎週日曜日に放送しました。トラックが暮らしを支えていることを、毎回さまざまなテーマで紹介したもので、(1)トラックの役割を見直そう(2)変わるトラック業界(3)キーワードは環境(4)安全が一番――を軸に、会員事業者の働いている様子や事業者の声で実情を分かりやすく説明しています。
東京都の環境確保条例のディーゼル車規制実施をはじめ、首都圏の1都3県の環境条例施行や速度抑制装置の装着義務付けが、全国から首都圏へのトラック輸送に影響を及ぼすため、テレビ、全国紙などからトラック協会・業界への取材が頻発化しました。そうしたことに対応し、業界の声をキチンと伝えてもらうための"交通整理"も行いました。そのためテレビニュースなどを含めて、環境対策に苦労している実情や交通安全対策などが紹介されました。
東京都トラック協会は、グリーン経営認証取得のための講習会を積極的に開催しています。環境に対する社会的関心の高まりを受け、荷主企業が環境に配慮した経営を行っていく意向を強め、それに応じて物流企業の選定にもグリーン経営の方向を求めているためです。
トラック運送業界では、今後「グリーン経営認証取得」や「安全性優良事業所」ということが、荷主側からの運送事業者選択ファクターになるとして、その対応を積極的に進めています。