東京、埼玉、千葉、神奈川の1都3県によるディーゼル車規制が2003年10月1日から始まりました。一定のPM(粒子状物質)排出量基準を満たさないディーゼル車の運行を禁止する規制で、東京都では1日午前零時から築地市場で取締りを開始しました。1日から3日までの3日間の集中取り締まりでは、市場やトラックターミナル、幹線道路上で計770台のディーゼル車を調査した結果、違反車両は10台で、違反率は2%でした。10月1日から2004年2月29日までの5か月間合計では、路上や物流拠点など延べ86か所で実施した取締りの結果、確認した3,049台のうち、違反車両は75台で、違反率は2.5%となりました。違反車両の内訳は、都内(確認車両1,610台)が24台(1.5%)、環境条例施行の3県(同924台)が36台(3.9%)、1都3県以外(同515台)が15台(2.9%)です。
東京都は11月4日、ディーゼル車規制開始後初めての運行禁止命令を4社の運行責任者に対して出しました。10月1日から3日までの集中取締りで確認された4社の4台に対して行ったもので、その後12月26日には10月中の取締りにおける違反車両5社5台の運行責任者に対し第2回目の運行禁止命令を出し、2004年1月29日には12月まで3か月間の取締りで違反を確認した4社5台の運行責任者に運行禁止命令を行い、3月1日にも12月の取締りで違反を確認した1社1台の運行責任者に運行禁止命令を出しました。この結果、3月1日までの運行禁止命令は、14社15台となっています。内訳は、都内が3社4台、3県が4社4台、1都3県以外が7社7台です。
一方、国の自動車NOx・PM法に基づき一定の排出ガス基準を満たさない車両の継続車検が受けられなくなる車種規制も1年間の周知期間を経て2003年10月1日から実質的に開始されました。国の法律は、ディーゼル車のPMとNOx(窒素酸化物)の両方の基準を満たす必要があり、自治体の条例にはPM減少装置の装着で対応できるのに対し、国の規制に適合するためには最新排出ガス規制に適合した新車に買い替える必要があります。いずれにしてもこれらの環境規制への対応は、長引く景気低迷下のトラック運送事業者にとって大きな負担となっており、都内では倒産や廃業が相次いでいます。
国や自治体の環境規制に適合するためには、最新規制適合車に買い替えるか、PM減少装置を装着する必要がありますが、メーカーの供給体制が十分でないこともあって、納車や装置の装着が間に合わないという事態が起こりました。とくに1都3県のディーゼル車規制対応では、新車への買い替えより安価なPM減少装置で対応する事業者が多く、PM減少装置への需要が集中して10月の規制開始までに装着・納車が間に合わない車両が14万4,000台も発生しました。これらの車両について首都圏の8都県市は、12月末までを期限とした「確認証明書」を発行して取締りの際の罰則適用を猶予する措置をとりましたが、年内に間に合わなかった車両が約4万台あったため、メーカーが2004年1月末を期限とした「納車・装着予定日遵守証明書」を発行して、猶予措置を延長しました。ところが、なお一部のメーカーでは予定日までの納車・装着が困難となっている車両約1万台が発生していることがわかり、8都県市は猶予措置の再延長を余儀なくされました。
再延長では、期限を原則として2月末までとし、予定日を遵守できなかったことに対してメーカーが事業者にお詫びの文書を送付して改めて納車、装着期限を明記し、その「詫び状」が送付された車両については罰則の適用を猶予することとしました。ただ、東京都トラック協会の調査では、都内の営業用トラックだけでもなお4,456台の装置装着が4月以降にずれ込むと見込まれています。
ディーゼル車規制に対応するための車両や装置への需要集中による混乱は、国の補助金においても同様の事態を招きました。国土交通省は2003年4月1日から、道路特定財源を活用して計40億円のPM減少装置装着補助の受付を開始しましたが、受付開始からわずか2か月余りの6月11日、補助申請額が予算額を上回ったとして受付を打ち切りました。6月10日時点ですでに48.5億円の申請があり、最終的には60億円を超す申請を受け付けました。同省では低公害車導入補助予算の一部を活用して8月末までに計48億円を交付決定しましたが、装置の供給が間に合わず、2004年1月時点で装着を終えたのは全体の3割程度にとどまっている状況となりました。
残りの7割については一部を除いておおむね年度内に装着可能と見込まれていますが、年度末には整備工場での装着が集中するため、速やかに装着を完了するようメーカーと事業者に協力を要請しました。
兵庫県は2003年10月10日、独自のディーゼル車運行規制を盛り込んだ改正「環境の保全と創造に関する条例」を公布しました。ディーゼル車の排出ガスによる公害訴訟が起こされた尼崎市を抱える同県では、自動車NOx・PM法の規制地域拡大を機に流入車両に対する規制強化を求める声が高まり、条例化されたもので、条例では自動車NOx・PM法に基づく車種規制の基準をそのまま県外からの流入車両に対しても適用し、基準に適合しない車両の運行を禁止しています。いわば自動車NOx・PM法の流入規制版ともいえる制度で、首都圏1都3県の条例がPMのみを規制しているのに対し、兵庫県ではNOxの排出量も削減する必要があります。
規制は2004年10月1日から開始され、車両総重量8トン以上(乗車定員30人以上)のトラック・バスが運行規制の対象となります。規制地域は神戸市灘区および東灘区、尼崎市、西宮市(北部を除く)、芦屋市、伊丹市の阪神東南部地域ですが、中国縦貫自動車道、阪神高速5号湾岸線、ハーバーハイウェイなどが適用除外路線として指定されています。猶予期間は、トラックの場合、自動車NOx・PM法の猶予期間に1年を加えた原則10年とされていますが、初度登録によってはそれより長い猶予期間が定められています。
中央環境審議会に設置された自動車排出ガス専門委員会(委員長=河野通方東京大学大学院新領域創成科学研究科長)は2003年10月17日、ディーゼル車排出ガス規制のさらなる強化の検討に着手しました。ディーゼル車の排出ガス規制は、2002年から2004年にかけて実施される新短期規制でPMとNOxをそれまでに比べて約3割削減し、2005年に実施される新長期規制では、新短期規制に比べPMでさらに75%~85%、NOxで41%~50%削減されることが決まっています。わが国のディーゼル新長期規制は、2005年時点では世界で最も厳しい排ガス規制となりますが、米国では2007年から2010年にかけてディーゼル重量車の大幅な規制強化を予定しており、それによれば日本の新長期規制に比べPMで約2分の1、NOxで約10分の1とする内容となっています。わが国では石原慎太郎東京都知事が「わずか2年で日本は再び後塵を拝する」と政府に規制強化を求めたこともあって、環境省では世界最高水準の規制の検討を中央環境審議会の専門委員会に求めました。
ディーゼル車のさらなる排出ガス低減には軽油の硫黄分の低減が不可欠ですが、中央環境審議会が2003年7月29日にまとめた今後の自動車排出ガス低減対策についての第7次答申では、軽油中の硫黄分濃度を2007年から10ppm以下とし、2005年には燃料生産者の自主的な部分供給が望まれるとしています。
国土交通省の外郭団体である交通エコロジー・モビリティ財団は2003年10月1日から、トラック運送事業のグリーン経営認証制度を開始しました。国土交通省、全日本トラック協会の協力を得て、同財団が認証機関となって一定レベル以上の環境保全への取り組みを行っている事業者を審査のうえ、認証・登録する制度です。環境マネジメントシステムに関する国際規格としてはISO14001が注目されていますが、中小企業が大半を占めるトラック運送業界でも容易に取り組めるよう独自のマニュアルを作成して目標の設定や評価をしやすいように工夫したもので、事業者の努力を客観的に証明することで取り組み意欲の向上を図り、トラック業界の環境負荷低減につなげることが狙いです。
認証基準はチェックリストのレベル1から3までのチェック項目のうち、法規制の遵守や一般的基本的な取り組みであるレベル1の達成を基本とし、認証有効期間を2年として次回更新までの間の取り組みを毎年書類による報告で定期審査します。認証料金は1事業所あたり15.5万円で、認証を取得した際には登録事業者名をホームページで公表するほか、登録証とロゴマークを交付します。2004年3月10日現在で、計64社150事業所に認証登録証が発行されています。
全日本トラック協会は2003年度から、「トラックの森」づくり事業を進めています。森林の保全を通じて地球温暖化防止に貢献する事業で、(社)国土緑化推進機構の協力により国有林に1ヘクタール程度のフィールドを「トラックの森」として設定し、地域のボランティアの協力も得ながら森を育てています。2003年10月3日には三重県員弁郡北勢町の国有林で、「トラックの森」第1号の記念植樹が行われました。今後毎年度1か所ずつ植樹を行い、全国7か所程度に展開していく予定となっています。
地球温暖化防止対策の一環として、温暖化対策税(環境税)の導入が議論されています。環境省では、政府の地球温暖化対策推進大綱見直しにより追加的な対策が必要とされた場合に備えて検討を進めており、中央環境審議会地球温暖化対策税制専門委員会がまとめた具体的な制度案を2003年8月29日に公表し、広く国民の意見を募集しました。制度案の試算では、炭素1トン当たり3,400円(ガソリン1リットル当たり約2円の値上がりに相当)を課税することにより、価格上昇による消費抑制効果とともに、その税収約9,500億円を温暖化対策の助成に投ずれば京都議定書の6%削減目標を達成できるとしています。
2003年11月28日までの3か月間にわたって行われた意見募集では、団体から157件、個人から279件の合計436件の意見が寄せられ、このうち6割に当たる259件が導入に反対する意見でした。意見では、コスト増により国際競争力の低下や国内産業の空洞化が進むとして日本の経済や雇用に対する影響を懸念するものが多く見られ、こうした経済影響に対する懸念を払拭することが課題となっています。トラック運送業界も日本自動車会議所を通じて「既存の自動車関係諸税は自動車ユーザーにとって過重な負担となっており、さらに負担増となる温暖化対策税の導入は反対」と新税の創設反対を打ち出しています。与党の2004年度税制改正大綱では、「国民経済産業全般に与える影響等を考慮し、国民的議論を踏まえて総合的に検討する」とされており、環境省では2005年度の導入をめざしています。
自動車のリサイクルをメーカーを中心とした関係者に義務づける「使用済自動車の再資源化等に関する法律」(自動車リサイクル法)が2002年7月に制定され、2005年1月から本格施行されます。産業廃棄物最終処分場のひっ迫、不法投棄などの防止を図るため、自動車メーカーと輸入業者に対し、フロン類、エアバッグ、シュレッダーダストの引き取りとリサイクルを義務づけるもので、自動車所有者→引取業者(デーラー等)、引取業者→フロン類回収業者または解体業者、フロン類回収業者・解体業者・破砕業者→自動車メーカー等へと、一連の関係者に引き取りと引き渡しを義務づけます。リサイクルに必要な費用は、新車については販売時に、既販車については法施行後最初の車検時に自動車の所有者が負担することになります。リサイクル料金は、資金管理法人として指定された(財)自動車リサイクル促進センターが管理し、自動車メーカー等が料金の払い渡しを請求する仕組みとしました。リサイクル料金は2004年7月以降各メーカーが定めて公表することになっており、トラック運送業界にとっては新たなコスト負担となります。
なお、関係業界が永年にわたって求めていた自動車重量税の還付制度も2005年の本格施行にあわせて実施されます。